面白い小説の書き方(基本編)

たまにはブログ的なことを書こう。小説の方はもうちょっとストックを溜めてから。

*面白い小説の書き方(基本編)

 たぶんこうすれば面白くなるという妄想論。根拠は特にない。一般論的なので、いわゆる天才型には当てはまらない。あと、ストーリー小説を想定。芸術性を重視するような文学作品は範疇外。

1.出だしにインパク
 当たり前のことだが、面白くなかったら小説はそもそも読まれない。なのでまず最初にインパクトのある場面を持ってくる。興味を惹くような。ビジュアルが容易に想像できると良いかもしれない。
 逆に動きのない説明文的文章は基本的にNG。例えば、長々と世界観を説明するようなの。そういうのは、それが期待されるような状況でもなければやらない方がいい。例えば、大作戦記物とすでに宣伝されているとか、ゲームのオープニングとか。まあ、普通は無いのでやらない方がいいということだ。最初から説明文を延々と読むのは、意外とつらい。初心者にありがちなミスである。

2.盛り上がりを意識する
 盛り上がりに欠ける小説は、やはり面白くない。起承転結とよく言われるが、正直盛り上がらせることをちゃんと考えていてそれが達成できれば、起承転結構造になっている。
 ただし、意識していても実際に盛り上がらせるのは難しい。いや、盛り上がらせることができても、その程度がなかなか高くならないのだ。だからストーリーライターが悩むのだが。ここは発想しかない。
 とにかく、意識するとしないのでは大違いである。ただ漫然と書いているだけでは、つまらない文章になりがちである。

3.感情移入させる
 小説の媒体としての利点は、他の媒体に比べ、感情描写を多く書けるという点である。漫画のように絵など他の部分で魅せられない分、これには注意しなければならない。
 どんな物語であっても、主人公が赤の他人に感じられては、その苦悩や葛藤、感動を感じることはできない。これは物語の盛り上がりとも深く関係する。故に感情移入は大事なのだ。
 どうやってこれを達成するかは、別の機会に譲りたい。たぶん、これについては議論の余地が多いだろうし。

4.読者に優しく
 どんなに面白い文章でも、理解されなければそれは支持を受けない。たとえばピカソゲルニカでも、普通の子供から支持はなかなか得られないだろう。もし多くの支持を受けたいのであれば、読者に優しい小説を書くべきである。
 読者は、当然だが、文章に書かれていること以外は受け取れない。それどころか、文章が複雑になれば受け取れる確率が減っていく。それに、無意識にセンテンスや単語を読み飛ばすこともあり得る。読者は作者が思う以上にバカなのだ(言葉が悪いが)。
 読者にはそれぞれの読むスタンスがある。真剣に一字一句読む人もいれば、漫画を斜め読みするような感覚の人もいる。もし多くの人に楽しんでもらいたいのならば、できるだけ作者の方が読者に歩み寄らなければならない。表現が複雑になりすぎていないか気をつけるとか、重要なワードを何度も記述するようにするとか。
 これは個人的に結構大事だと思う。何を書くにせよ、まず読んで理解してもらうことが大切だろう。十人に一人分かってくれればいいという想定では、百人に一人も分かってくれない。


とりあえず、こんな感じか?
意見などあればどうぞ。
次書くとすれば、表現編か。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章04a

 しばらく用事で更新無しの予定。

「風よ、我が敵を切り裂け」
 クロウは素早く呪文を唱え、自身の魔力で風を発生させる。そしてその風を圧縮し、風の刃として迫り来る魔物に放った。
 風の刃は魔物の体の一部を切り裂いたが、その進行は止まらない。それどころか切った部分をすぐに再生させ、速度を上げて迫ってくる。
「だめです、クロウさんっ。効いてません!」
 そうミリアが言う前にクロウは動いていた。効いていないと知るやいなや、迎撃行動を一時停止し、逃げの体勢に入る。
「ああ。とりあえず、どうにかして撒くしかない」
 ミリアの手を引いて走り出す。敵はかなり近づいてきていた。このままではすぐに追いつかれるだろうから、走りながら打開策を考えるしかない。
「どうにかしてって、どうするんですかっ」
 ミリアは辛そうな顔で言う。体力はあまり残っていないようだ。長い間逃げ続けることはないだろう。
 クロウは辺りを観察する。使えそうなものがないか。足止めに使えそうなものがないか。しかし下水道にそんなものが転がっているわけもなく、クロウは悩んだ。
 あれを使うしかないか。クロウはリュックの中に入れてあるマジックアイテムを思い浮かべる。それを使えばおそらくダメージを与えることができるだろうが、倒せるかは分からない。それに大きな音がするため、いらぬ敵を呼び寄せるかもしれない。
 しかし止むを得まい。迷っている時間はない。後ろの敵はすぐそこまで迫ってきているのだから。クロウは後ろを振り向こうとした。
「こっち!」
 突然、声が響く。前方で扉が開いた。その扉を開けたのは、さっき地上で助けた少年のようだった。
 クロウはこれ幸いと、飛び込むように扉の奥へ走り込む。ミリアもそれに続いた。そして二人が中に入ったと確認した瞬間、少年は鉄の扉をすぐさま閉じる。
 ずるずるという魔物の不気味な足音が扉の向こうから響いてくる。クロウは身構えたが、魔物は扉の中へ入ってくることなく、通り過ぎていったようだ。
「行ったか」
「そうみたいですね」
 ミリアはほっと胸をなで下ろす。クロウもやれやれだ、とため息をつく。
「大丈夫? おにいちゃん、おねえちゃん」
 少年が訪ねる。クロウはそれに笑って答えた。
「ああ。おかげで助かった。ありがとう」
「良かった」
 少年も笑顔になる。
「本当にありがとうございます。えーっと」
「エル」
「エルさん。私はミリアって言います」
 ミリアは丁寧に礼をする。自分より年下の少年エルに対しても礼儀正しく接しているが、声音は心なしか優しい。
「クロウだ」
 クロウは短く名乗って、辺りを見回す。二人が飛び込んだ部屋は、本棚やベッド、机などが置いてあり、居住空間として使われているように見える。部屋の隅には梯子が掛かっている。ここから上へ出られるようだ。大きさはそこまで広くなく、生活している人がいるなら、おそらく一人暮らしだろうと思われた。
「この部屋は?」
 クロウはエルに訪ねる。
「ここは管理人室。この下水道を管理する人が住んでたんだ。たまに魔物が進入したりするから、それを止めるんだって」
「なるほど。しかしここに住み込みで働くなんて、結構しんどそうな仕事ですね」
 ミリアは鼻をつまんだ。
「それで、その管理人はどこに行ったんだ?」
 クロウがそう訊くと、エルは少し悲しそうな表情をした。
「たぶん、あの魔物にやられて死んじゃった」
「それで兵士が来ることになったわけだな」
 クロウは納得して頷く。
「それでお前はここで何をしていたんだ? それにさっきも上で絡まれていたが」
 エルは少し悩むように唸ってから言う。
「うーん、遊びに来たって感じ? さっきはここに来ようと思って裏通りを走ってたらぶつかっちゃって」
 えへへ、とエルは照れ笑いをする。嘘を言っている様子はないようだ。疑問系が気になるところだが、おそらく微妙な関係だったのだろう。下水道の管理人も子供がこんなところに来るのを歓迎していたわけではあるまい。
「そうか。・・・・・・世話になったな」
 クロウは立ち上がって、ミリアに「行くぞ」と告げる。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章03c

 ここ二日くらいまともに書いてなかったから、書き溜めが無くなったでごわす。だが大丈夫だ、問題無い。なければ書けばいいのだ。


「ここだな」
 町の裏路地の一角。誰も寄りつかない袋小路の先にその入り口はあった。鼻が曲がるような異臭がする。クロウはそこそこ慣れているので大丈夫だったが、ミリアは結構辛そうな顔をしていた。
「流石にすごい臭いですね」
 ミリアはしかめっ面で鼻をつまむ。
 水の国はその名の通り、水の加護を受けている国だ。故に水の魔法は発達し、また水を扱う技術も他の国の追随を許さない。しかしいかに水の国の技術が発達しているとはいえ、下水道の水を即座に浄化することはできない。いや、下水道がこんなに整備されているだけましなのだ。他の国では川に垂れ流しているところも多い。
「はぐれないよう気をつけろよ」
「私、耳は良いので大丈夫ですっ」
 クロウが注意を促すと、ミリアは耳をピコピコ動かしながら自信満々に答えた。クロウはため息をつかざるを得ない。
「はぐれてからのことを考えてどうするんだよ。はぐれないようにしろと言ったんだが……。まあいい」
「きゃ」
 クロウはミリアの手を半ば強引に握った。ミリアの顔が少し朱色に染まったが、クロウは気付いていない。
「俺たちは追われる身だ。十分に気をつけて進むぞ」
「は、はいっ」
 クロウは錠前を開けた扉を蹴り開け、ミリアの手を引いて、下水道に続く階段を降りてゆく。
 町には朝日が差してきたが、下水道の中はかなり暗い。町の地下を通り抜けるように作ってあるのだから当然といえる。
「暗いですね。私の魔法で明かりをつけましょうか?」
 ミリアが提言する。あれ以外にも属性が使えるとは、なるほどすばらしい魔法の才能だ、と思いつつもクロウはそれを断る。
「あまり魔力を消費するのは得策じゃないな。さっきので体力も消費しているだろうしな」
 暗さで表情があまり見えないが、ミリアは少しさっきのことを思い出して落ち込んでいるようだった。クロウが何か言ってやらないといけないか、と思っていると、ミリアは何かを振り払うように頭を降って、にわかに握る手を強める。
「そうですね。これから何がでてくるか分かりませんしっ」
「何か出てきたら困るけどな」
 クロウは一旦手を離してリュックから松明を取り出して火をつける。それによって光がもたらされ、二人をの周囲がよく見えるようになった。
 下水道の両側には道があり、その真ん中をどろどろした下水が流れている。道の至る所に蜘蛛の巣が張っていて、虫や小動物の姿も見受けられる。下水は澱んでいて、排泄物とともに色々なゴミが流れてくる。
 クロウとミリアは手を繋いで、狭い道を早足で歩いていく。急いでいるのは、言うまでもなく、兵士に見つかるかもしれないからだ。下水道は町の地下を張り巡らすように伸びているため、確かに見つかりにくいのだが、クロウは宝物だけでなく、姫までさらった大罪人なのだ。今頃地上では血眼になって捜索されていることだろう。
「何か聞こえます」
 分かれ道に差し掛かったところでミリアが言った。
「複数の足音。鎧を着ているみたいです。金属音がします。もしかしたら兵士かもしれません」
「どっちからだ?」
「あっちからです。こっちの方に向かってきているようです」
 ミリアはT字路の左側を指す。クロウはすぐさま松明を消した。相手が右折してくれば隠れるのは難しいが、そのまま直進してくれればどうにかやり過ごせる。
 思ったよりも兵士が来るのが早い。ジョン・キューの情報なら、普通はこんなことにならない。やはり本気で探しているからなのだろうか。それとも別に理由があるのだろうか。
 息を潜めて兵士が行くのを待つ。クロウにもようやく足音が聞こえてきた。兵士たちはゆっくりと辺りを警戒しながら移動しているらしい。
 クロウはミリアの手が微かに震えていることに気づく。緊張しているのだろうか。さっき喧嘩を売りに行ったときもこうだったのだろうか。クロウは握る手の力を強めて、勇気づけてやる。ミリアはクロウを見た。その瞳を見返して、大きく頷く。震えは収まったようだった。
 ゆっくりと流れる時間の中、兵士が通り過ぎるのを待った。足音から五人くらいの編成だと分かる。クロウはその程度の人数ならどうにかできる自信があったが、ミリアがいることもあり、なるべくことを構えたくはない。曲がらずに行ってくれ、とクロウは願う。
 兵士たちはクロウたちが見つめる中、道を直進していった。足音が聞こえなくなるまで待って、クロウはため息をつく。
「ふう。さあ、行くか」
「待ってください。まだ何か聞こえます」
 クロウは不思議に思いながらも、ミリアの言葉を待つ。
「焼ける音、魔法? 駆けていく足音。戦闘でしょうか?」
 そういった瞬間、クロウにもはっきりと聞こえる音が響く。
「悲鳴!」
 クロウに悪い予感がよぎる。これは何か変だ。こういう場合は早く移動するに限る。
「行くぞ!」
「でも、兵士さんたちが危ないみたいです! たくさん悲鳴が」
「バカ、あいつらで手に余るようなもんを俺たちでどうにかできるかよ」
 クロウは強引にミリアの手を引いて走り出す。前と違って、今度は彼女の言葉に耳を貸すつもりはない。本来のルートとは違うが、兵士の来た方へ曲がる。下水を飛び越えなくて良いのがラッキーだった。
 ずるずるずる、と何かが這いずって来る音が聞こえてくる。思ったより速度が速いようだ。ちらりと首だけ振り返ると、人の二倍くらいある大きさのぶよぶよしたアメーバのような物体がいた。暗闇の中で、血のようなどす黒い体がこぽこぽと波打っている。――どこからどうみても魔物だ。
「はあ、はあ、このままだと追いつかれそうです」
 ミリアが息を上げながらクロウに言う。クロウは迎撃しなければならないか、と覚悟を決める。魔法を使って逃げ切れたとしても、ここを出る前にまた障害として現れる可能性がある。他にも魔物が棲んでいる可能性もあり、ここで対峙した方がいいのかもしれない。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章03b

「まったく、手間のかかる姫だ」
 風は的確に男だけを吹き飛ばし、ミリアはその場で尻餅をついた。そして驚きと嬉しさの混じった表情でクロウを見る。
「さっさと片づけるぞ」
 クロウは男たちの方に向けて右手を突き出し詠唱を始める。
「くそっ、仲間か!」
 さっき吹き飛ばされたリーダーの男はそれを阻止しようと、全力で走る。それはクロウの詠唱速度を上回っていた。
「遅い、遅いぞ!」
 男は拳を振り上げ、クロウに渾身の一撃を加えようとする。ミリアはクロウが殴られる姿を想像して、目を閉じようとした。
「わざとだよ、バカ野郎」
 男が拳を振り上げると同時。クロウは右手を引き戻し、腰を低くした。そして相手の拳の軌道を縫うように体を捻らせ、男の顎を殴り抜く。
 予想外の攻撃を食らった男は、自分の加速度を逆に利用した力で昏倒した。男の仲間たちは狼狽えだす。
「あのリーダーがよりによって格闘戦でやられちまった!」
「これやばいんじゃね?」
「逃げようぜ」
「待ってくれよ!」
 リーダーを残して他の仲間たちは逃げていった。ミリアに押さえられていた男も、いつの間にか戒めから抜け出してそれについて行っていた。
 ミリアはため息をつくクロウを見る。呆れた表情をしているようだが、怒ってはいないようだった。
「クロウさんっ! あの、その」
「まずはあっちが先だ」
 クロウは男たちから解放された少年を指した。その少年は呆然としているようで、地面にへたり込んでいる。
「大丈夫か?」
 クロウは少年に手を差し伸べる。おいしいところを全て持っていくクロウに不満を覚えないでもないミリアだったが、結局助けられる身になってしまったので何も言えずに黙ってその様子を見る。
 少年はクロウの手を取ると立ち上がって元気よく礼をする。
「ありがとう、おにいちゃん!」
 クロウはぶっきらぼうに返事をする。ミリアはその光景を見て羨ましく思う。いくら正義感があっても、勇気があっても、力がなければ誰も救えない。魔法が少し使えるからといって、自分は少し調子に乗っていたのではないか。本当は力がないくせに、誰かを救おうとするから失敗する。結局助けられる側になってしまう。
 少年がこちらに向かってくる。そしてクロウにしたのと同じように礼を言う。
「ありがとう、おねえちゃん!」
 自分は何もしていないのに、とミリアは思う。しかし少年の瞳には、真っ直ぐな感謝の心が籠もっていた。こんなに純粋で真摯な気持ちを前にして、ふてくされている場合ではない、とミリアは少年に笑顔で返す。
「今度からは気をつけてくださいね」
 少年は元気よく返事すると、手を振って裏路地のどこかへ走り去って行った。ミリアも少年に手を振って、見えなくなったところでクロウの方を見る。
「クロウさん、その、ごめんなさい」
 ミリアはクロウに向かって頭を下げた。
「私、クロウさんに失礼なこと言いましたし、勇んで出ていったわりにはすぐ負けちゃうし、結局助けられて・・・・・・。バカみたいですよね。弱いくせに誰かを助けようとするなんて、おこがましいですよね」
 ミリアの青い瞳から一筋滴がこぼれた。これ以上クロウに迷惑を掛けたくないから泣きたくなかったが、止めどない感情の奔流は抑えきれない。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 今彼はどんな表情をしているのだろうか。ミリアは怖くて見ることができない。ただ謝ることしかできない。
 そんなミリアの頭に、柔らかく温かい手の温度が触れる。ミリアはその手を見上げた。その先で、クロウは優しく微笑んでいた。
「まあ、そんなに気にするな。お前は正しいことをしようとしたんだから、卑下する必要はない。誇って良いことだ。ただ、今はまだ結果に結びつける力が弱かっただけだ。それは今から強くなればいいだけのこと」
「クロウさん」
 ミリアはクロウがとても眩しく思えた。自分には手が届かないところにいるように見えた。それでも、近づきたい。近くにいたい。そんな風に思えた。
「でも、あんまり無茶なことはするな。全ての人を救うことはできないのだから。それでも、どうしてもお前が助けたいっていうのなら、その時は力を貸してやる。それだけ覚えておけ」
 そう口にするクロウは、どこか寂しそうに見える。表面には出さないだけで、クロウにも何か”救われない”ものがあるのかもしれない。
 ミリアは涙を拭いた。目元はまだ赤い。しかし前を向かなければならない。彼はもう前を向いて進んでいるのだから。
「落ち着いたか? なら行くぞ」
 ゆっくりと歩きだしたクロウの後を、ミリアは離されないように付いていく。町はもう明るさを増してきていた。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章03a

 本作初の戦闘シーン。魔法とかの説明がやっとできる。ただしあんまり本格的には説明できないのであった。(テンポの問題で)
 そろそろ直したい部分とか増補したい部分が増えてきた。どのタイミングでやるべきか。


 長屋の通りを抜け、裏通りを二人は駆けていく。ここは長屋の通りに比べて活気に乏しく、酔っぱらいや浮浪者が地面に寝転がっているのが見られる。行き交う人の中には、厳つい顔をした怖そうな男やタバコをくわえて宿屋から出てくる女の人がいた。同じ町の中といえども、はっきりと雰囲気が変わるものだな、とミリアは思った。
 少し恐怖心はある。おそらく一人ならこんな場所を抜けることなどとてもできないだろう。多少魔法が使えるといえども、ミリアは未だ少女なのだ。
 ふと裏通りの住人の男と目が合って、慌ててそらす。ミリアは足を早めて少しクロウとの距離を狭める。疲れを知らない彼は、昨日大立ち回りを演じたところなはずなのに、それを感じさせない動きをしている。
 対してミリアは少し息が上がっていた。元からあまり運動が得意ではないのもあるが、昨日の逃避行の疲れが完全には抜けきっていなかった。それでもこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかず、クロウが振り返る度、笑顔で答えた。いざとなれば魔法の力で肉体を補助すればいい、というのもミリアを強気にする原因だった。
 先を走っていたクロウが突然その足を緩めた。その先を見れば、数人の怖そうな若者たちが一人の少年を囲んでいる。少年はミリアよりもいくつか幼いくらいの年だ。かなり険悪な雰囲気で、今にも暴行が始まりそうだった。
「少し迂回するか」
 クロウは通りを左折して、迂回するルートへ抜けようとする。しかしミリアはそれを止める。
「クロウさん、あれはどう見てもいじめとかリンチとかの類ですよ。止めないと!」
 クロウはミリアの提言をばっさりと断る。
「だめだ。俺たちにそんな余裕はない」
「どうしてですか! クロウさんは義賊じゃないんですか? 弱い人たちの味方じゃないんですか?」
 ミリアはクロウの袖を掴んで、非難するように言う。しかしクロウは全く取り合おうとしない。
「俺は別に義賊を気取っているつもりはない。弱者の味方でもない。俺は俺のやりたいようにやってるだけだ」
「私は助けても、あの子は助けないんですか!」
 抗議するミリアに、クロウはミリアの瞳を見て諭すように言う。
「あのな、今とお前の時じゃ全てが違う。今の俺には大荷物があって、戦う余裕も時間もないんだ。わかるな?」
 ミリアは初めてクロウの口から自分が荷物であるという言葉を聞いて押し黙った。そして今のクロウの言葉には、それ以上に威圧感があった。
「ほら、行くぞ」
 クロウが先へ進もうとする。しかしミリアは動かない。非公式でも王女としてのプライドが僅かでもあったからなのか、それとも今まで自分が助けを必要とする側だったからなのかわからない。しかし今目の前で助けが必要な人を置いていくことはできない、と心の底から思うのだ。
「クロウさん」
 ミリアは振り返る彼の目を強く見つめて言う。
「私はあの子を置いていくことはできません。助けます」
 それを聞いたクロウは、頭を掻いてため息をつく。
「勝手にしろ」
 その言葉に笑顔を返して、ミリアは囲まれている少年の方へ向かう。その少年は集団の一人に襟首を掴まれて、今まさに殴られようとしているところだった。
「待ちなさい」
 ミリアは勇気を振り絞って声を出す。本当は怖い。足も微かに震えている。マントがあって良かったと思う。そのまま正面から喧嘩を売るなんて、そんな経験が皆無のミリアにはできそうもない。
「ああん?」
 一番手前にいた男がミリアに近寄ってくる。逃げ出したくなる心を抑えて、ミリアは毅然とした態度で言った。
「その子を離してください」
「なんでてめえにそんなこと言われなきゃなんねえんだ?」
 男は威圧するように上からミリアを見下ろす。
「大勢で囲って幼い子供を虐めるなど、外道のすることです。人のすることではありません」
「はあ? なめてんのか!」
 目の前の男が掴みかかってくる。ミリアは機敏にバックステップで避ける。話し合いで解決できないことは、最初からミリアにも分かっていた。だから少し魔法で肉体を強化しておいたのだ。このくらいの魔法は無詠唱でも行使できる。
 掴みかかられて黙っているわけにもいかないミリアは、目の前の男にお灸を据えるような気持ちで、魔法を唱え始める。
「マナより出でし水のエレメントよ、我が敵を水の針となりて拘束せよ!」
「こいつ、魔法使いか!」
 男が慌てて身をかわそうとするがすでに時遅し。ミリアが振るった手の先から水の針が形成され、男の服を地面に縫いつけ転倒させる。
 水の精霊の加護を受けたこの国では、水の魔法が行使しやすい。ミリアはそのおかげで、水の魔法を素早く完成させることができたのだった。
 ミリアは残りの男たちを見た。人数はあと四人。魔法で圧倒できれば、なんとかなる気がする。
「よくもやってくれたなあ、女ァ!」
 少年に掴みかかっていた男が前に出てくる。体格も一番大きく、この集団のリーダーのようだ。
「これはちょっとおしおきしないといけねえなあ」
 そう言った途端、男がミリアに向けて走り出す。ミリアは魔法で迎撃しようとするが、男の加速は想定を遙かに超えていた。ミリアはとっさにかわそうとするが、避けきれず、相手の拳を腕で受けた。
「魔法が使えるのは、お前だけじゃねえんだぞ」
 男がミリアを卑下するように笑みを浮かべる。ミリアは殴られて地面に転がされたが、マントがはだけなかったに安堵した。ここで正体がばれるのはまずい。万が一にでも兵士が騒ぎを聞きつけて来る可能性立ってあるのだ。
 ミリアはさっきの攻撃について考える。おそらく詠唱は最初の男を倒している間に済ましてしまったのだろう。それで肉体を強化して殴りかかってきた、というのが妥当だ。
 体格差がある以上、こちらも肉体が強化できるといえども、殴り合いは避けたい。普通の人間はそう何種類もの属性を使えるわけではないので、相手は接近戦しか仕掛けてこないだろう。となると、距離を確保した上で遠距離から攻め落としたい。
「お顔を拝見させてもらおうか」
 男がゆっくりと近づいてくる。ミリアはその間に詠唱を終えようと小声で呪文を口にする。
「おっとそうはさせない」
 男は急に飛びかかるように近づき、ミリアに掴みかかる。その衝撃で詠唱は途切れた。男が不振な顔をする。顔を見られたのかもしれない。絶体絶命のピンチだ。単純な恐怖と自分のふがいなさに涙が出そうになる。
 そしてマントが取られる、と思った瞬間。一陣の風が吹いた。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章02c

 ミリアは14歳、クロウが16歳の設定。クロウは生まれ育ちや過去の関係で少し上に見えればいいなあ、という感じ。ミリアは年相応に見えるのかしら。見えないとしても、箱入りだから仕方ないで片づけるつもり。


 ミリアが目を覚ますと、肩に毛布が掛けられていた。そして結局あのまま寝てしまったことを思い出す。城から出てきてからクロウには迷惑をかけてばかりだなと、寝ぼけ眼をこすりながら思う。
 今何時だろう。地下室なので当然、朝日は入ってこない。外の様子を伺うこともできない。出発するのなら、早朝の方がいいだろう。
 そういえばクロウはどうしたのだろうと思い、椅子に座ったまま後ろを振り返ると、クロウはすぐ下の床に寝転がっていた。スペースが狭いため、足を折り畳んでいてちょっと寝にくそう。ミリアはクロウのずれた毛布を直してやった。少しの恩返しにもならないけれど、これがミリアにできる精一杯だった。
「お目覚めですかな」
 ジョンが階段を下りてくる。その手にはパンと目玉焼きと水が二つずつ乗ったトレーを持っている。
「ジョンさん、おはようございます」
「おはようございます。そろそろ時間ですから、クロウを起こしてあげてください」
 ジョンはそう言いながらクロウの上をまたいで、トレーをテーブルの上に置く。ミリアはクロウを揺すって起こそうとする。
「クロウさん朝ですよ。かわいい女の子が朝起こしてくれるシチュエーションなんて、今後訪れないんですから、観念して起きてください」
「まずそのシチュエーションが今後あるかどうかと起きるかどうかに因果関係は無いし、そもそもそんなシチュエーションが起こり得ないという保証はない! 俺はそんな寂しい奴じゃない!」
 クロウが機敏に体を起こす。ミリアが起こす前に覚醒はしていたようだ。
「じゃあクロウさん、彼女居るんですか?」
「未来に存在する可能性は大いにある」
「じゃあ居ないんですね」
「今はな」
「居ないんですね」
「……」
 ミリアがとどめの一撃を加えると、クロウは再び毛布をかぶって不貞寝し始めた。ミリアは満足そうにそれを見届けると、ジョンの持ってきたトレーの置かれたテーブルにつく。
「これ、頂いていいんですか?」
「ええ。ささやかなアフターサービスでございます」
 トレーに乗っているのは、暖かいクロワッサンと良い香りを辺りに振りまく目玉焼き、そして濁りのない水だ。水の国といえども、このような綺麗な水が飲めるのは上流以上の階級くらいだ。何の変哲もない朝食に見えるが、結構質の良いものが出されている。
 正直なところ、ミリアは外に出ればもう昔のような食事は一切できないだろうと思っていたので、この食事は純粋に嬉しかった。
「ありがとうございます、ジョンさん。では、いただきます」
「俺を無視して勝手に食おうとしてんじゃねえ」
 クロウが悪態をつきながら、向かいの椅子に座る。
「それに何がささやかなアフターサービスだ。しっかり金取ってるくせに」
「安くした部分がサービスでございますよ」
 ほっほっほと笑うジョンを横目にクロウは食事を口に放り込んでいく。食べ方からして、クロウは味より量を求めるタイプのようだった。
「ちゃんといただきますしないとだめじゃないですか。それによく噛んで食べないと」
 がつがつと食べるクロウをミリアが諫める。
「お前は俺の母親か。腹に入れれば変わんねえよ」
「ちゃんと噛まないと消化に良くないですよ。それにいただきますは?」
「別にいいだろ。そんなの」
「いただきますは?」
「……いただきます。なんで俺、やりこめられてるんだろう。ちょっと自分が悲しくなってきたぜ」
 クロウの朝食は心なしかしょっぱくなったようだが、気にせずミリアは自分のペースで食事を続ける。クロワッサンは焼きたてで、外はカリカリ中はふんわり、口に入れれば僅かな甘みが広がる。目玉焼きの黄身は半熟で、フォークで突くととろりと黄色が広がってゆく。白身と一緒に口に含めば、薄く塩がかかっているようで、舌に心地良い塩味を感じた。そして間に水の国自慢の水を挟めば、何度でもこのうまみを感じることができる。
 城ではもっと豪勢な食事を食べることが多かったが、しかしこのシンプルな食事はそれに負けずとも劣らない。何がそんなに違うのだろうと思い、食事を食べ終わったミリアはジョンに尋ねる。
「ごちそうさまでした。おいしかったです。どうしたらこんなにおいしい食事を作れるんですか?」
「この食事は私が作ったわけではありませんが……。そうですね、それはきっと心が籠もっているからでしょう」
「心が?」
「ええ。それはここの住人たちが作ったものですが、彼らは誰かに食べてもらう以上、どんなものでも最大限おいしく食べてもらおうと心を尽くすのです。それが私のような余所者であってもです。それが秘訣ではないでしょうか」
 なるほど、とミリアは頷いた。城で下働きをしている人たちは、お金で雇われている以上の忠誠を持つ者が少ない。ましてや得体の知れない囚われの姫ならなおさらだ。そこに心を尽くすなんてことは、無くても仕方がない。
「そろそろ出るか」
 クロウが立ち上がる。そして荷物を持つと、ジョンに礼を言って地下室を後にする。
「ありがとう、ジョン。次も頼むぜ」
「こちらこそ、ありがとうございました。期待してますよ、クロウ」
「ありがとうございました」
 ミリアも丁寧に礼をして、クロウの後ろに続く。ジョン・キューの部屋を出ると、鮮やかな朝焼けが東の空に広がっているのが見えた。長屋の町並みには、ちらほらと早起きな人たちが自分の仕事に取りかかっている。春過ぎとはいえまだまだ肌寒く、ミリアはマントを深くかぶった。
「さあ、こっちだ」
 クロウはフードで軽く顔を隠し、足早に町中を進む。ミリアはクロウから貰った靴でその道のりを踏みしめていく。どうか何事もなく、上手く行きますように。ミリアは首からかけたロケットに、そう願いを掛けた。

大泥棒と水の姫君(仮)第一章02b

 水の国の城下町を出るまでが第一章の予定なのだが、あと倍くらいはありそうな勢い。道は長い。

「算定が終わりましたよ」
 ジョンがクロウに声をかける。クロウの持ち込んだ品の合計は、普通の家が数軒くらい建つような値段になった。流石にミリアも目を丸くして驚かざるを得なかった。
「王族のくせに驚いてどうするんだよ」
「私の部屋にそんな高価な物はありませんでしたから」
「ああ、確かに。貧乏姫ってところか」
「貧しくはないですっ」
「見たところ裕福には見えないが」
「どこを見て言ってるんですか変態っ」
 ミリア渾身のチョップがクロウの頭に突き刺さる。
「いってー! 城でのことと言い、その馬鹿力はいったいどこから出てるんだよ」
 クロウがそう訊くとミリアは得意げに答える。
「これは魔法の力で肉体を強化しているんですっ。私、魔力と魔法適正は高いのでいろんな魔法が使えるんですよ。まあ、ちゃんとした教育を受けたわけではないので、高位の魔法は使えませんけど」
「わざわざ魔法使ってツッコミ入れるなよ!」
 クロウとミリアが軽く漫才をしている間に、ジョンは旅に必要な物資と資金を金庫から出していた。
「仲がよろしいことでなによりですな。それで、残りの分はいつも通りで構いませんかな?」
「ああ」
「いつも通り?」
 ジョンとクロウのやりとりに、ミリアが割って入る。
「ええ。クロウは必要な分以外のお金を、孤児院や恵まれない子供たちになどに寄付しているのです。いわゆる義賊というやつですな。私はその代行を」
「また言わなくていいことを」
「まさかの展開ですっ。ここで良い人アピールなんて」
「俺がしたわけじゃねえ!」
 クロウはやれやれと頭を掻く。
「しかしクロウ、良い人だと相手に思わせることは、信頼関係を築く上で非常に大事なことです。誰も悪い人とは一緒にいたくないでしょうから。これからお嬢さんと旅するのなら、それはきっと必要なことです」
「そんな回りくどい言い方しなくても、仲良くしろって言えばいいだろ」
 クロウはため息を付き、ジョンは笑う。ミリアはその様子を見て、長い付き合いなんだろうと考えた。自分も誰かと長く一緒にいれば、あんな風に相手の考えていることも読めるようになるのだろうか。友人がいないミリアは、少し羨ましく思った。
「物資と金は貰ったから、あとは情報だな」
「はい。こちらにメモをしておきました」
 ジョンが取り出した羊皮紙には、何やら町の地図とルートが書いてあった。紙は二枚あり、そちらの方にも何かの地図が書いてあるようだ。
「下水道か」
「ええ。よく使われるルートですが、正しいルートを行けば安全に町を出ることができます」
 クロウはその紙を懐にしまい込み、早速出ていこうとする。それをジョンが引き留める。
「ああ、お待ちください」
「どうした?」
「出発は明日になさった方がよいのでは? そちらのお嬢さんは限界のようですが」
「そ、そんなことないですよ」
 ミリアはそう言いつつも、堪えきることができずに大きなあくびをする。クロウはそれを見て呆れたように頭を掻いた。
「仕方ないな。しかしどうするかな。俺の家はすぐに足が付くだろうし」
「それならここに泊まっていけばいいでしょう。兵士が来たところで、この地下室ならばれることはありません」
 ジョンは満面の笑みでクロウを見る。
「商売上手なこった。いくらだ?」
「よくおわかりで。これでどうでしょう」
 クロウとジョンは値段交渉に入った。流石のクロウも歴戦の商売人には勝てないらしく、唸りながら押されている。寄付の額を減らせばいいのにとミリアは思うが、クロウはしたくないのか頭にないのか、それをしない。そうこうしているうちにだんだん睡魔が襲ってきて、ミリアはテーブルに突っ伏したまま、いつの間にか眠っていた。