リレー07

とりあえず書いた。
こんな感じで良かったカナー?

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 豪奢な装飾の施された室内には、向こうの相手が小さく見えるほど長いテーブルがあった。向こうに座るのはこの狂った殺し合いの主催者、ここを統べる魔族の頭首。通称マグヌス(偉大なる者)。眉目秀麗で誠実そうな人間の外見をしていたが、壁面のステンドグラスを通じた光に当てられて、それは虚飾に彩られているようにしか見えない。もちろん、それはルーキーの所感に過ぎない。しかし彼が発した最初の台詞で、それは客観的にも明らかになったと言える。
「同族殺しは楽しいか?」
 統べての元凶はにやりと口角を上げて、楽しそうにルーキーに尋ねる。その声は表情と裏腹に、非常に冷淡で無表情だった。ルーキーはその言葉に踊らされぬよう表情を出さずに返答する。
「答える義理はない」
 するとマグヌスはつまらなそうにため息をつき、血の色のワインを飲み干しつつ言う。
「その答えをしたのはお前でちょうど三十人目だ。なんとつまらぬことか。ほとんどの人間の答えは四通りしかなかった。はいかいいえか、黙っているか、お前のように答えないと宣言するか。そこで終わってしまう」
 そこで再び薄ら寒い笑みをその顔に戻し、思い出すような素振りをしながらマグヌスは続ける。
「あの女のように、もう少し頭を使った返し方ができるのならば、人間への評価も上がるのだがな」
 ルーキーを品定めするように鋭い眼光を浴びせ、しかしそれも数瞬の間に終わり、マグヌスはテーブル上の贅を尽くした料理に手をつける。
「お前も食べるといい。体は資本と言うだろう? いくら私が憎くとも、体を維持できなければどうしようもあるまい」
 ルーキーは皿の上の料理に目を落とした。そこでは何の肉かわからないステーキがじゅわじゅわと音を立てて焼けている。敵に言われて口にするのは癪だったが、その論理に欠陥はなく、食べるほかに道もなかった。
 一瞬を心の平静を保つのに使い、ナイフとフォークを手に取る。鈍い銀色を放つ刃には、業を背負わされた哀れな人間の顔が醜く映った。醜くとも構わない。生を得るためならば。ただ一つの復讐を果たすためならば。
 テーブルマナーもその他礼儀も気にせずに、ただひたすら肉を口に運ぶ。香辛料の匂いと味が下の上に広がる。そしてその後に染み出す肉の味を感じる前に、咀嚼をして喉の奥へと押し込んだ。肉は筋肉が集まっている部分なのか固めだったが、どんどんとつかえることなく胃に収めてゆく。
「……っは!」
 数分の間に、ルーキーはテーブル場の料理を平らげ、最後のワインを飲み干した。腹は満たされたが心は全く満たされない。こんなにも不快な満腹感は初めてだった。
 そしてそのまま席を立ち、部屋に戻ろうとする。食事が終わればこんな部屋に用はない。マグヌスはその行動を止めることなく、その背中に不気味な笑みを投げかけながら言葉を浴びせた。
「お前の食べたその肉はやがてお前の血肉となり、力となるだろう。お前が強くなることを期待している。その時に再びまみえよう」
 その言葉の真意は知れなかったが、魔族の言に弄されてなるものかとルーキーは聞き流し、晩餐の部屋を後にした。一気に飲み干したワインの酔いが回ってきたせいか気分はそこまで悪くなく、不気味な高揚感が体中を巡っていた。