リレー05

遅れて申し訳ない。
今更だが01で「裸電球」がどうのとか描写してるが、「松明」がどうのこうのに脳内変換よろ。電球とかファンタジーじゃねえ。

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 悲鳴。轟音。火災の音。阿鼻叫喚の中、立ちつくす。体中に付いた血は、魔物に襲われた時に追った傷から溢れたものと、目の前で死んでいった友人のものだ。彼の死体は無残にも上下に分かれ、足元に転がっている。
 ひどい有様だった。家屋は焼け落ち、村の中を流れていた小川はどす黒く染まっている。いたるところに死骸が落ちており、吐き気のする臭いが周囲に漂っている。
 遠くから断末魔の声が聞こえた。同時に何者かの羽音も。その羽音はどんどん近付いており、言いようもない悪寒が全身を這う。
 早くここから逃げなくては。足を動かそうとするがなかなか動かない。どうして、どうしてだ。逃げなければ殺される。眼前で殺された友人のように生きたまま二つに裂かれるか、それとも魔物の吐く炎で全身を焼き殺されるか、その他にせよ、まともな死に方はできない。地獄の苦しみなしには死ねない。
 羽音は近くまで来ていた。どうして足は動かないんだ。自分の足を見た。そこには死んだはずの友人の手がしっかりとしがみついていた。
「ああああああああ!」
 何とか逃れようとするが、手は離れない。すると上半身しかない友人の顔が、ゆっくりと持ち上がる。
 それはNo.82の顔だった。ひどい火傷を負っていた。肌は爛れて黒ずみ、目は白く濁っている。そして呪うように叫ぶ。
「何故殺した!」

 ――そこでNo.100は目覚めた。鼓動は速く、息は荒い。そのまま落ち着くために深呼吸を繰り返す。そして少し冷静になったところで思い出す。あの最悪な殺し合いを終えた後に気を失ったことを。
 No.100はベッドに寝かされていた。辺りを見回して、ここが二人用の個室であることを理解する。No.100が寝ていた他にもう一つベッドがあったからだ。それ以外は最初に連れて来られた部屋と変わらず、窓が無いため薄暗く、松明が一つ燃えているだけだ。
 No.100の体には包帯が巻かれていたが、傷はあまり痛まなかった。恐らく、治癒魔法を掛けられたのだろう。怪我をしたままでいられては、次の試合に響くというわけだろう。右手には再び封印が刻まれていた。殺し合いの間だけしか、封を解く気はないのだろう。
 様々に考えを巡らせていると、何者かが扉を開いた。少し身構えるが、入ってきたのは銀髪の美少女だった。
「起きたか」
 凛とした声で少女は言った。年齢はNo.100と変わらないくらいだろうか。薄汚れている割には美しい長髪を揺らしながら、向かい側のベッドに座る。同室者のようだった。魔物には人間の男女同室などどうでも良いのだろう。
「傷の具合はどうだ? そこそこの重症だったようだが」
 No.100は一瞬逡巡して、人間相手に沈黙をする必要もないかと素直に答える。
「問題無いな。こんなにすぐ傷を癒せる魔法があることに驚くくらいだ」
 No.100の返答に満足したのか、少女は薄く笑みを浮かべ、細く白い腕を差し出す。
「それは良かった。私はNo.1。ここではユキノハと呼ばれているよ。私が氷の刃を扱うところから誰かが付けたみたいだね。君の同室者になる。異性だから不便なこともあるかもしれないが、同じ人間同士仲良くしてほしい」
 No.100はその手を取って握り返す。その手は少しひんやりとしていた。
「ここでは本名よりも二つ名を使うことが多いんだ。連れて来られる時に記憶を失っている者も多くいるからね。ちなみに君が殺した男はスイダンと呼ばれていたね。捻りの無いことだが。本名は誰も知らないようだ」
 ユキノハはそこで一息置き、No.100に尋ねる。
「ところで君は自分の二つ名を知っているかい?」
「いいや」
「そうだろうね。君は今起きたばかりなのだから。君は、二つ名で呼ばれたいかい?」
 No.100は質問の真意を量りかねて、質問を返す。
「それは、どういう意味だ?」
「君の二つ名が『ルーキー』だからさ」
 二つ名が「ルーキー」とはどういうことだろうか。No.100は考える。これが通り名になるのなら、自分の次に入って来る人間はどうなのだろうか。それにここでの二つ名は名前としてそのまま使い続けられるはずなのに、いつまでも新入りはおかしい。
「これにはわけがあって、それは君が永遠に一番新しく入ってきた存在になるかららしい」
「永遠に一番新しい?」
 ユキノハは複雑そうな表情を浮かべて言う。
「ああ。君はこの殺し合いの『最後の』参加者。ここから先は参加者が増えることなく、ただ減っていくだけ」
「なるほどな」
 最後の参加者。それは被害者がこれ以上増えないということと同時に、希望が小さくなったということの証左でもあった。例えば反旗を翻すチャンスが来たとして、人間側はそのチャンスが来るタイミングが遅ければ遅いほど苦しい戦いを強いられる、ということである。また、新しく強大な魔力を持った人間が入って来ることも無く、今いる人間でどうにか脱出方法を考えなければならないということでもあった。
「それはともかく、君のことはルーキーと呼んでいいかな?」
「ああ」
 ルーキーは少し苦笑を浮かべながら頷いた。変な名前だが、悪くはないかと思いつつ。
「それじゃあ、この施設の中を案内しよう。いくつか知っておくべき場所もあるからね」
 そう言いながらユキノハは立ち上がった。
「分かった。それはありがたい」
 ルーキーはユキノハに続いて、この薄暗い部屋を後にした。