リレー03

えらく時間がかかり申し訳なかったが、リレーNo.03始めるザンス。

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 光の先はコロシアムだった。観客席は円形に広がっており、無数の歓声が降りかかってくる。三千といる観客は全て人間ではなかった。角が生えている者、翼を生やした者、蛇のような胴体の者など、見回す限り魔物しかいない。
 No.100は前を見据えた。どうやらこのコロシアムの中心の闘技場には、二つ出口があるらしい。その一つは今No.100の背後にある扉。そしてもう一つは向こう側にあった。そしてその扉の前には、一人の少年が立っていた。魔物ではなく人間だ。年はNo.100と同じくらいだろうか。右腕にはNo.82と刻まれている。どうやら彼も魔法を使えるらしく、その体から魔力が感じられる。その量は恐らくNo.100と同程度。
 No.82もNo.100を見返していた。その瞳には憐れみと、恐怖心が映っているよう。時折不安げに目を泳がせている。彼には今からここで何が起こるのかが分かっているようだった。嫌な予感がした。No.100は少しでも情報を得ようと、隈なく周囲を見渡す。
 観客席と隔たれたこのフィールドには、二人以外誰も立っていない。出口にはいつの間にか鉄格子が下りており、出られないようになっている。観客席には数多の魔物。一様に半券のようなものを握りしめている。ああ、そうか。No.100は独り頷く。きっとここでは人間を競わせているのだ。しかもまともではないやり方で。
 目を少し移すと、観客席の奥に一際豪華な席が用意されているのが見えた。そこには巨大な体躯を持つ男が座っている。外見は人間に近いが、頭から二本の角が生えている。煌びやかな装飾に身を包んでおり、相当位の高い魔物であることが伺える。恐らくこの男が主催者なのだろう。そして村を滅ぼし、No.100をここへ連れてきた主犯。
 No.100は思わず拳を強く握りしめた。No.100の村は魔物たちに突然破壊された。大勢の魔物が突如として村を取り囲み、攻め入ってきたのだ。何が目的かは分からないが、No.100がわざわざ生かされて、なおかつここに立たされている状況を考えれば、ある程度の予測はできる。少なくとも、このショーを開催するためであることは確かだろう。そして恐らくそれだけではない何かが、裏にはあるはずだ。そうでなければ、あんな大軍を動員させる意味は無い。
 思考がそこまで進んだところで、一体の魔族が翼を羽ばたかせて、フィールドの中央に降り立った。ちょうどNo.82との直線上。No.100は殺してやろうかと思ったが、意味の無いことだと諦める。こいつ一人を殺したところで替えはいくらでもあるだろう。反逆の牙を見せるのは、最後の瞬間だけでいい。
「これより、No.82対No.100の対戦を始めます! まずはルールを確認します」
 魔族は観客にも聞こえるような大声で話し始めた。
「ルールは単純明快。殺し合って、生き残った方が勝者です。そして勝ちを重ねて百人の頂点に立てば、この施設から脱出することができます。頑張って勝ち残ってください」
 醜悪な笑みを浮かべて魔物はNo.100を見る。意味の無い約束だ。No.100は思った。勝ち残ったところで、その約束が果たされる保証はどこにもない。
「制限時間は三十分。引き分けの場合は十分の延長。それでも決まらない場合は、両者とも敗者とみなされます。敗者の行く先は言わずもがな。注意してください」
 気持ちの悪い笑い声を上げて、魔物は人間二人を見る。時間内に殺し合いが終わらなければ、両方ともが処刑。つまりはどちらかは必ず死ぬというわけだ。No.100は恐怖心を感じながらも、冷静でいるように努めた。ここで焦って死ねば復讐も何もない。やるしかない。
「さあ、では張り切ってまいりましょう。流麗なる水の繰り手No.82対期待のルーキーNo.100!」
 No.100は身構える。相手がどれほどの使い手であろうとも負けるわけにはいかない。負ければそこで全てが終わり。村のみんなの仇を取るためには、ここで勝たなければならないのだ。殺さなければならないのだ。たとえそれが人間相手だとしても。
 重く激しい銅鑼の音が響いて、愚かな殺し合いは始まった。