大泥棒と水の姫君(仮)第二章05a

更新頻度が下がってきたので更新。第二章開幕。第二章のプロットはいまいち完成してないけれど見切り発進。それに加えて書き溜めも無いけれど。


第二章

 その後は、特に問題無く下水道を進むことができた。怪我したミリアの右腕には、クロウの取り出した包帯を巻いて応急処置をした。そしてブロブのいたところを抜けると、すぐに外の光が見えてきたのだった。
「ようやく外が見えてきましたね」
「ああ。だが油断するな。外に見回りの兵士がいないとは限らないからな」
 ミリアはブロブを退けて楽観的になっていたが、クロウは全く気を抜く様子がなかった。
「ミリア、外の様子は聞こえるか」
 そう言われてミリアは耳を澄まして探ってみるが、水の流れる音と、鳥の鳴き声くらいしか聞こえなかった。見回りの兵士はいないらしい。
「大丈夫みたいです」
「よし」
 クロウは一旦先行し、外の様子をうかがう。ミリアは少し過剰に思ったが、同時にクロウの生きてきた世界の厳しさを感じた。
 クロウが手招きする。どうやら敵はいなかったようだ。ミリアは頷いてクロウに駆け寄る。しかし途中でよろめいて転んでしまった。
「大丈夫か」
 クロウが近寄って、ミリアに手を差し出す。ミリアはその手を取って立ち上がる。
「大丈夫ですけど、ちょっと疲れちゃったのかもしれません」
 ミリアは苦笑いして答えた。そんなに疲労を感じていたわけではないが、緊張と興奮で感覚が麻痺しているのかもしれない。
「もう少し進んで町から離れたら、一旦休憩しよう。そこまでは頑張れ」
 クロウは優しくミリアに声をかけた。ミリアはできるだけ元気良く返事して、歩き出す。
「しかしあのマジックアイテムは凄い威力でしたね」
 ミリアがそう切り出すと、クロウはマジックアイテムについての説明を加えた。
「あのマジックアイテムは手榴弾というらしい。確か火の国に行ったときに盗んだものだったかな。マジックアイテムとは言うが、実際に魔力は宿っていないらしい」
「それならなぜマジックアイテム扱いなんですか?」
 ミリアが訪ねると、クロウは少し思案顔になった。
「今の技術では再現できないからだ。最高の技術を持つ火の国であってもな。いったいどこから来たのかも分かっていない」
「なるほど」
 存在し得ないもの。ミリアはそれがどこから来たのか、少しだけ心当たりがあった。
「もしかしたら、『禁断の地』から来たのかもしれませんね」
「禁断の地……」
 禁断の地は、限られた者以外入ることのできない土地のことである。土地の内部については一切が禁忌とされ、一部の王侯貴族以外はその中に何があるのかさえ知らない。水の国から樹の国を挟んで反対側にあり、理想郷だとか魔物の蔓延る地だとか、噂は絶えない。
「禁断の地なら、何があっても不思議じゃありませんから」
 かく言うミリアも禁断の地のことは知らない。彼女の父ならば知っているかもしれないが、話は聞いたことがなかった。
「確かにな。あんなものがざくざく出てくるのなら、俺も行ってみたいものだ」
 そう言ってクロウは笑う。クロウの緊張もある程度解けてきたようだった。警戒はしつつも、談笑して歩く余裕がある。
 水の国の城下町の外には、草原が広がっている。しかし少し南西行くと森が見えてくる。二人が向かっているのはその方向だった。そちらには巨大な湖があり、それを越えると風の国との国境がある。クロウの計画では、巨大な港町を擁す風の国に向かい、そこから適当な国へ逃げる。
 草原は見晴らしが良かったが、門から遠いからか誰も見受けられない。聳える城壁の内には見張り台もあるだろうが、その距離から二人の顔を見分けられるはずもない。追っ手は来ないようだった。
 しばらく歩いて行くと、森が見えてきた。川が多く気温も適した水の国では、植物が育ちやすい。湿地帯も多くあり、多様な生態系が見られる。
「森に入ったら、休憩にするか。あそこならもし兵士が来ても隠れやすい」
 クロウはここまで来ても、警戒心を完全に解くつもりは無いようだった。ミリアはそんなクロウを頼もしく思うと同時に、そんなに気を張って生きて大丈夫かなと心配するのだった。もちろん、危険な状況にあることは理解していたが。