大泥棒と水の姫君(仮)第一章01a

意外と使いやすいんじゃね? タイトルの01aは俺用区分。

第一章

 グライダーから見えるのは水の国で最大の都市。新月の闇の中でも、城下町の灯火は爛々と輝いていた。石畳で舗装された大通りには、日付が変わったというのにも関わらず、ちらほら人が行き交っている。
 そんな大通りから少し外れた路地裏。クロウとミリアは明かりの少ない薄汚れた道を歩いていた。
「あとどれくらいで着くんでしょうか」
 ミリアはその上半身を、長めの布をローブのように使って隠していた。いくら夜で暗いとはいえ、その髪と瞳と耳は目立つ。誰かに見られるのを避けたいが故の措置だった。
「もうへばったのか? そんなんじゃ旅はできないぞ」
「そういうわけじゃないです。ただ見つからないか不安で。あとこのマント地味に臭いです」
 ミリアが羽織っている布はクロウのマントだった。マントは寒さを防ぐ以外にも、傷を縛ったりロープのように使ったりできる。クロウはそれ故にマントを常備しており、今はそれをミリアに貸し与えているのだった。
「まあ大丈夫だ。兵士たちは大通りの酔っぱらいどもをどうにかするので忙しいからな。それにもうすぐ着くしな。あとお前結構人の気にしていることを的確に突いてくるな。以外とショックなんだぞ」
 クロウとミリアはグライダーで逃げ出したあと、城下町の郊外に降り立った。そしてそのまま別の場所へ向かうことはせず、城下町の中にあるクロウの隠れ家に行くことになったのだ。
「そういえばさっきは聞きそびれましたけどどうして隠れ家へ行くんですか? 見つかっちゃいますよ」
 ミリアはクロウの表情を伺う。臭いは言い過ぎたかなと思ったからだ。会って数時間も立っていないが、彼がわりと傷つきやすい人物であることは何となく察していた。
「あそこにはいろいろと金や装備なんかを置いているからな。それにその近くで商人とも約束している。これを売り払って金にしないと、何もできない」
 そう言うとクロウは、ニヤリと笑いながら肩に背負った袋を指した。そこには城から盗んだ宝物がたくさん入っている。どれも一級品の道具やマジックアイテムだ。金に換えれば、軽く遊んで一生を暮らすことができるだろう。
「なるほど。そういえば、これからも泥棒家業続けるんですよね? あとでその中見せてください。私、これでもそれなりに勉強してますから、お金にするよりも使った方が良い道具を見つけられるかもしれません。あとその笑い方、ちょっとなんというか生理的にきついというか。やめた方がいいですよ」
 ミリアはなるべく迂遠な言い回しをしてクロウを気遣ったつもりだったが、クロウの表情を再び見れば、それは逆効果だったと悟った。
「ああ、分かった。しかしお前、本当に良い性格してるな、恩人に対して。そしてその口撃力も」
 クロウはため息をつきながら空を仰ぐ。
「ごめんなさい。真実は時に人を傷つけるのですね」
「お前いい加減にしろよ」
 クロウが拳を振り上げるポーズをしたので、ミリアは一歩後ろに下がる。そして笑顔で再度謝罪を口にする。クロウはそれを見て再びため息。やれやれと振り上げた拳を解いて頭を掻く。
 ミリアは会ってまだ少ししか経っていないが、クロウのことを気に入っていた。自分を不自由な環境から連れ出してくれた恩人ということもあるが、それ以上に何だかんだで自分に構ってくれる彼の性格が好きだった。最近ほとんど誰かと話していなかったので、はしゃいでしまっている感はある。自由になれたのだと思うと、余計に。そういえばとミリアはクロウの顔を見上げながら言う。
「ありがとうございます」
「何だ急に」
「ちゃんとお礼を言えてなかったな、と思いまして」
「そうか。そりゃどういたしまして」
 クロウは照れたように顔を逸らした。それを見てミリアは微笑む。
「お、あそこだ」
 不意にクロウが道の先を指さす。そこにはぼろぼろの長屋が並んでいた。
「おお、あれが長屋というものですか。初めて見ました」
「流石お姫様だな」
「ええ、本格的箱入り娘ですから。この町で見るほとんどは目新しいです」
 ミリアは爛々と目を輝かせている。裏路地を歩く間は逃げている緊張感からか耳が垂れ下がっていたが、目的地について安心したようで、耳が復活していた。
「行くぞ」
 ミリアを放っておくとそのまま長屋を観察して動かなさそうな雰囲気だったので、クロウはその手を取って隠れ家へ連れていく。
「だ、大胆ですねっ」
 突然手の温かさが直に伝わってきて、ミリアは頬を赤らめた。しかしクロウはその言葉の意味を理解していないようで、「何が」と表情を変えずに言った。